「猫恋」🐈ねこに恋して🐈
第1話 海の男と三毛ちゃん
Yさんは、全長278m、貨物積載能力13万トンの大型貨物船に乗って航海していた“海の男”。
スエズ運河、パナマ海峡などを通過するときは緊張が走ります。
というのも、海賊に遭遇することがあるからです。しかし、大型の貨物船には海賊は手が出せないようで、難なく乗り切ってきました。
航路は貨物により異なりますが、日本からの荷物を積み、各港で降ろし、その国の荷物を積み…と、世界中を回ってきたYさん。船乗りにとって、給油のための寄港時が安息のひととき。そして1年のうちの3分の2の休暇時が、なによりの喜びだったそうです。
そんな生活にも56歳でピリオドを打ち、定年後は、最愛の奥様と近所の公園をウォーキングするなど、悠々自適な生活を楽しんでいました。
いつものように散歩中、どこからか猫の鳴き声が。公園に目をやると、ゴミ箱に入ってエサをあさっている三毛猫がいました。それから幾度となく、ゴミあさりをしている場面にでくわし、エサをあげるようになったYさん。猫は夕方頃Yさんを待つようになり、「三毛ちゃん♪」と呼ぶと飛んできます。
Yさんと三毛ちゃんは、Yさんの愛車の中で2~3時間過ごして、「さよなら」をする日々。寒い季節、雪や台風など悪天候のときは、Yさんの家で一晩を過ごさせていましたが、奥様がアレルギーのため飼うことはできませんでした。
お外で暮らしている三毛ちゃんの心配は尽きません。ある日、三毛ちゃんの首のところに傷を発見。すぐに病院で手当てをします。また、あるときは、車の事故なのか病気が原因なのか、食欲もなく動けなくなっており、何日間も点滴に通ったこともありました。
こうして三毛ちゃんとの生活が10年間続きましたが、いつものように車の中で過ごしていると、三毛ちゃんが失禁するようになり、目が見えてないのでは…と思うこともしばしば。ちょうどその頃、公園の近所の家の中学生Aちゃんがエサをあげていたことがわかり、年老いてきた三毛ちゃんを見るに見かねて、YさんはAちゃん宅の庭に箱を置かせてもらえないかと頼みます。
Aちゃん一家は、快く縁棚に箱を置いてくれました。最初は箱に入らなかった三毛ちゃんも、やがて箱に入り、家の中へも入れてもらい家族に可愛がられながら晩年の6年間を過ごしたのです。
~三毛ちゃんのアルバムより~
AちゃんがYさんのために作った「みけちゃんのアルバム」 このアルバムには、みけちゃんの日常が詰まっています
3月30日、忘れもしない三毛ちゃんの命日には、お礼の品をもってAちゃん宅を訪ねるYさん。
Yさんは、今でも、三毛ちゃんと過ごした日々を懐かしく思い出します。三毛ちゃんと過ごした時間は、陽光を浴びて輝く波のように、いつまでもきらめき続けているのでした。